“がん哲学外来”は、がんと共に生きる方(がん治療をこれから行う方、今現在治療を続けておられる方、治療を終了されたのち生き方を模索されている方)そしてその家族の方などと“お茶を飲みながら人生を考える時、考える空間、そして沈黙の中に分かり合う心”の共有という大事な使命感をもって、開催されているメディカルカフェといえます。
“がん治療”に関する国の取り組みは、がん対策基本法の制定を契機に大きく変革しています。私たちの地域浅草でも、気合いをもって夢を語る同志との出会いがあり結集することになったのが“浅草がん哲学外来”です。その後、樋野興夫先生より拝命した冠名称が“勝海舟記念”です。
医療施設内の他職種連携とは違い、雇用の形態も雇用元も、職種も全く違う者同士が連携して一人の患者・家族を支援するわけですので様々に葛藤が生じることもあります。一人一人の患者への療養支援のプラン作りから実際の支援までの間に、考え方の違いが露出することもまま出てくるのが現状です。
在宅療養に至っていない患者様への支援や情報提供の方法で、一人の医療者だけでは抱えきれない問題に遭遇することがあります。事例の積み重ねがその地域の心ある介護・医療を成長させることになります。その醸成と成長の場が、浅草がん哲学外来に存在しています。
毎回、それぞれのメンバーが“こんなことがあった”“あんなことがあった”と話題を持ち寄り、数時間を共有します。お茶を飲みつつ、少しだけおなかを満たしつつ、そのひと月に1回の時間は、お互いの気持ちの相互理解を深める大切な時間となっています。
医療が発展した現在においては、薬物治療をはじめとする医療・看護の技術は格段に進歩し、エビデンスに基づく看護技術も浸透してきましたが、それを支える、人間としての方向付けのコンセンサスの場は意外に少なく、それぞれの医療介護職同士の理解が深いわけではありません。
がんの患者様には、生きることに関する様々な対応・選択を迫られることに加え、生活や生き様や信念や家族を含めた課題が存在します。がんと共に生きる人とお茶を飲みながら穏やかで密で静寂な“生”の時をともに過ごすことは、その場にいる介護医療者にも同じだけの価値をもたらします。
地域でこのような相談体制を定着させるには大変な時間と労力が必要です。住民の心に寄り添うための“時間”と“実績”“存在感”今 私たちは、その空間づくりを丁寧に行っています。 浅草の地域に芽生えて4年目を迎えます。昨年平成24年12月22日浅草見番にて第3回シンポジウムを開催し、住民も含めて、ほかの地域行政の方々も交えて大きな輪づくりが行われました。今年はその芽を大切に育てながら「日々毎日ががん哲学外来」の言葉をモットーに輪と場づくりに励んでいます。
暖かい希望─「勝海舟・内村鑑三・新渡戸稲造 記念がん哲学外来」の実現─
先週の台風接近の夜、「勝海舟記念 下町 (浅草) がん哲学外来 in medical café」の立ち上げ準備研修会が浅草で開催された。筆者は、講師として呼ばれた。参加者は、調剤薬局の薬剤師、訪問看護スターションの看護師、東京大学の医師、慶応大学の医師、薬学部の学生、ジャーナリストなどの面々であった。外は、台風の様相であったが、内は、燃えていた。8月には早速「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来 in medical café」をスタートされるとのことである。それにしても、「勝海舟記念」とは、スタッフの「気概と胆力」に大いに感激した。
勝海舟(1823-1899)と言えば江戸城の無血開城、咸臨丸での太平洋横断などで知られているが、新渡戸稲造の『武士道』の第13章「刀・武士の魂」に出てくる。「故勝海舟伯は我が国歴史上最も物情騒然たりし時期の一つをくぐって来た人であり」で始まり、『海舟座談』を引用して、「これが艱難と勝利の火炉の中にてその武士道教育を試みられし人の言である」と記述している。現代の世にも欲しい人物である。「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来 in medical café」の存在は「医療の幕末」から 「医療の維新」への時代に向けての「事前の舵取り」になるだろうと感ずるのは筆者のみであろうか?
「新渡戸稲造記念 がん哲学外来 in medical café」の動きも具体的にあるようである。ほのぼのとした「暖かい希望」を感ずる。既に「新渡戸記念 訪問看護スターション」が東京に存在することを知った。新渡戸稲造(1862-1933)が賀川豊彦(1888-1960)と1932年日本で最初の医療利用組合の病院を設立したのは良く知られた事実である。「医療の新渡戸稲造」の一面でもある。
今年は群馬が生んだ傑物「内村鑑三(1861-1930)」の生誕150周年である。週末は、群馬県がん診療連携推進病院の主催で群馬(利根沼田文化会館)で「内村鑑三記念 群馬 がん哲学外来 in medical café」を話す機会が与えられた。300人の会場は、満員の盛況であった。講演後、『がん哲学』を購入した方にサインをした時、「『内村鑑三記念 群馬がん哲学外来 in Medical Cafe』を実現させて下さい」と、患者さんから頼まれた。日本国の為に「夢の実現」を切に願う。(第64回「がん哲学ノート」より)
がん哲学外来コーディネーター | 宮原富士子、村上恵美子、土屋千雅子
「暇げな風貌」と「偉大なるお節介」
「がん哲学外来」とは、生きることの根源的な意味を考えようとする患者と、
がんの発生と成長に哲学的な意味を見出そうとする病理学者との「対話の場」である。
「暇げな風貌」 と「偉大なるお節介」でもって、
がん患者・家族の話を傾聴 し、少しでも笑顔を取り戻して、
がんであっても自分の人生を生ききることができるようにする支援の一翼を担う。
樋野興夫(順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授、 「がん哲学外来」医師