初めての「コロナ正月」は、ほとんどの方がおうち時間を過ごされたことと思います。
私の場合、巣ごもり中だからいつもの年末年始よりも時間に余裕があるかなと思っていましたが、年神様をお迎えするために日頃怠けがちなお掃除をきちんとしないといけないし、納期の迫った仕事やたまりにたまった雑用をかたづけないといけないし……あれこれやっているとアッという間にせわしい時間が過ぎていきました。
それでも大晦日から正月2日までは何もせず脳を休ませることにして、ひたすら食べたりテレビをみたりしてゴロゴロしていました。お目当ては2日に放送されたドラマ「逃げ恥・・・」。人気ドラマのスペシャル版で、今回、ゆりちゃん(石田ゆり子)に子宮体がんがみつかるという設定で、「“顔つきのいい”がんなので見通しが明るい云々」というシーンが印象的でした。ご存じと思いますが、がん医療の現場ではがん細胞を病理診断する際、顔つきで診断します。顔つきの悪いものは悪性度が高く、そうでないものは治療して(場合によっては)根治可能ながんということになります。
さて、2020年はコロナで始まり、終わりはなく引きずったまま年を越すこととなりました。誰もが苦しく、生活の様々な場面でガマンを強いられました。友人からいただいた年賀状に「コロナ切りにあい、とりあえずバイト中」と書いてあるのを見て悲しくなりました。こんな不穏な空気に包まれた世界だからこそ、好きなことをして穏やかな時間を過ごしたいものです。
2020年最後の「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来」の「がん哲学メディカルCafe」(以下、「がん哲カフェ」と表記)は、12月21日に行われました。この日は、「“あずまや”と一緒に読書する年の瀬」で、大阪で「メディカルカフェあずまや」(以下、「あずまや」と表記)を主宰する東英子先生が講師として登場。あずまやで既に実践している読書会のノウハウをおしえてくれました。
あずまやの読書会は、課題作品を各自よんでくるのではなく、東先生が都度、選んだもの(あえて古い作品を選んでいる)を音読し味わっていくという方法をとっているそうです。一人で活字をおっていても理解不能で投げ出したくなる作品も多々ありますが、誰かが音読することで理解できるから不思議ですよね。
この日の作品は、新渡戸稲造の「武士道」で、「武士道」の7つの徳目の中の「仁」の箇所を東先生が味わい深く音読しました。
ちなみに「武士道」が出たのは1900年ですから、今年で110年ということになります。ご存じない方のために、「武士道」は現在も世界中で読み継がれ、オバマ元アメリカ大統領は日本を訪れる際には日本人を正しく理解するために「武士道」を前もって読んだと言われています。当たり前のように思いますが、最近、こういう礼儀が欠如しているように思えるだけにほのぼのした気持ちになりませんか。(私はさらにオバマ氏のファンになってしまいました!)
はきはきした口調で淀みなく緩急をつけて音読する東先生……。最初は、ハイターがきれていたから買わないといけないとか2階の電球を変えないといけないとかやるべきことをあれこれ考えていた私ですが……。耳にはいってくるリズムカルな音(声)をたよりにイメージを膨らませる。何も考えず、何も思わない、目をとじて楽しめる読書。
やることが多くて四苦八苦していた状態でのオンラインカフェ参加でしたが、師走の夜の心地よいひと時を持つことができました。
音読の効用については多くの学者が推奨していますがまさにそのとおりです。実は私、今から○十年近く前、中学時代に音読や暗唱が当たり前という国語の授業を受けていて、そのために得した事が多々あると実感しているため音読・暗唱教育大賛成派でした(当時の国語教師に感謝の言葉しかありません!)。間違えずに、抑揚をつけ、適度な間をとって読むためには、内容を理解するだけでなく心を整える必要があります。試験でいい点数をとるだけの学びでは得られない深さといったらいいでしょうか。是非、試してみてください。こういう時間を重ねると、いつしか“いい顔つき”になっていることでしょう。
例えば、在宅診療の患者さんとの時間で話すことがなくて困り、情けなさを感じたということはありませんか? 間をつなぐ話題が豊富なのは便利ですが、やみくもにしゃべればいいというわけではなく、他者の気持ちをよむ優しさ、思いやり、そして「間」の取り方が必要ですよね。
この日の話題の一つに、師走の一大イベント、「赤穂浪士がコロナのせいで話題にもならなかった!」があります。本当ですよね~。毎年、師走の一時期、テレビでは人気役者が大石内蔵助を演じ、主君の無念を晴らし潔く切腹するシーンに涙(?)してきたものです。もちろん、歴史を正しく知る必要はありますが、仁・義・礼・忠などの精神を知ることは大事だと思っています。
わかりやすく読み解いた「武士道」本もでていますので、是非この機会に読んでみてはいかがでしょうか?
【2020/12/21 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)