勝海舟記念下町浅草がん哲学外来Café

ACPって何?

 春と秋が短くなり夏と冬が長くなった感がある日本。その日本の今夏は、大阪北部地震、西日本豪雨、酷暑、関西・近畿地方を中心とした台風21号による甚大な被害、北海道胆振(いぶり)地方地震……と災害が相次ぐ「夏の災厄」となった。北海道は直前に台風の影響を受けたばかりで、まさに「多重被害」(こういう言葉があるかどうかはしらないが)と呼べるだろう。

 9月の「下町(浅草)がん哲学外来」の「がん哲学カフェ」(以下、「がん哲カフェ」は、台風の影響を免れたものの風が強く、雨が降ったりやんだりの10日に開催された。

 日本列島各地が様々な自然災害に被災される中、再び防災意識が高まっている様子で、スーパーやコンビニを覗くと、非常食やグッズが目立つ位置に並ぶようになった。台風21号では、安全のはずの家の中に避難していたのに、強風があらゆるものを飛ばし、被害を加速させた。至近距離から屋根瓦がとんできてガラスをつきやぶったケースなど、ありとあらゆるモノが自然の脅威によって凶器となった映像をみて恐怖を覚えた人は少なくないだろう。年々、バージョンアップする異常気象の中、私たちはどのようにして身を守ればいいのか。

 ……といった前置きから始まったこの日のがん哲の課題は、「ACPって何?」だった。

 「ACP(Advanced Care Planning)」とは、がんや脳梗塞などの病気で闘病中の患者さんが、将来起こりうる病状の変化に備えて、家族やかかっている医師・訪問看護師といった医療従事者とともに、患者自身が求める医療の希望、生命維持治療に対する意向、医療に関する代理意思決定者の選定などを行うプロセスを指す。たとえば、抗がん剤治療中のがん患者さんが、

 いつまで薬治療を続けるのか?
 現在、使用している抗がん剤の効果がなくなったらどうすればいいか?
 病状が思うように改善されない場合(ステージアップとなった場合)、どこで治療を受けるか?

 といった意思決定を元気なうちから準備するプロセスのことを意味している。

 少し前から自身が死んだ後のことを生前から準備する「終活」ブームとなっていて、葬儀はどうするか、どこに眠るかといったことをきちんと決める動きが一般的になっているが、ある意味、ACPも終活のひとつといえる。

 では、このACPを実施することにより何がどう変わるのだろうか?

 言うまでもなく、自身の意思決定であるから患者自身が医療に関して納得ができる。同時に家族の心理的負担、抑うつ、不安といった負の感情が改善されることではないだろうか。

 いつでも、どのような場合でも「患者の意向を尊重した」医療を行うACPの概念は、イギリス、アメリカ、オーストラリアを中心として始まったが、残念ながら日本では対応が十分とはいえないのが現状だ。

 それがために、ACPの意味することを広く周知させるための啓発運動が急がれ、展開すべきとしてニックネーム(「あなたの求める医療は、あなた自身が決める!」「私の最期は私次第!」など)をつけるべきだといった意見が出るに至っているそうだ。というのは、この日の参加者のうち、医療従事者でないのは筆者のみ。不勉強ゆえ知らなかったが、他のメンバーは当然ながらACPの概念を理解していた。医療従事者だけでなく、一般の方々もこの概念を理解して、納得の医療を受けることが求められている。

 ところで、この原稿を書いている最中、個性派ベテラン女優の樹木希林さん(乳がん闘病)が亡くなったという報道が流れてきた。その少し前は国民的アニメをうみだした漫画家のさくらももこさんが、やはり乳がんで亡くなられた。両者とも、10年以上がんと向き合い、あらゆる治療を試されたようだ。樹木さんは、「がんと闘うのではなく引き受ける。がんで死ねれば上出来」という言葉を残し、生前整理をされていたというから、覚悟を決めて生きぬき、そういう意味でACPを実践されていたといえるのではないだろうか。

 乳がんの啓発運動としては、毎年ピンクリボン運動が展開されているためか、女性ならばそれがどんな運動であるかは認識しているはず。

 まずは、「ACPって何?」と疑問を持つことから始めたい。

【2018/9/10 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)

 

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