勝海舟記念下町浅草がん哲学外来Café

誰もが人生を生ききることができる社会に

 毎年のように尋常ではない記録をぬりかえる酷暑の夏を耐え忍ぶ生活をおくっていたら、いつしかパリ五輪が開催され、気が付くとほとんどの競技が終了してしまいました。日本選手陣は健闘し好成績をだしていますが、その一方で国民の期待を一身にうけながら力をだしきれずに悔し涙を流したり号泣したりする姿があり、それぞれが過ごされた月日をおもうと胸が熱くなります。今大会は、コロナ禍の影響をうけ前大会の東京五輪が1年遅れで開催されたため3年ぶりの開催でしたが、その歳月は選手たちにとって長くもあり短くもあったことでしょう。

 コロナ禍が日本国内で深刻になったのは2020年2月、それから瞬く間に世界中がコロナに影響される非常事態となりました。現在はマスクをつける人が少なくなりましたが、思い返すとなんだか懐かしいですよね。幾度も非常事態宣言がだされ、不要不急の外出が制限され、在宅での働き方にシフトチェンジする企業が多くありました。コロナ最初の夏には快適と評判のマスクを求めて長い列に並んだものです……。
  8月の「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来哲学メディカルCafé」(以下、「がん哲カフェ」と表記)は、8月5日夜に開催されました。コロナの影響をうけ、2020年7月から2024年3月までオンライン開催をつづけておりましたが、今年になりようやくのリアル開催に戻った形となりました。これまでのスタイルに戻り喜びつつ参加してきましたが、なにせ4年近くオンラインスタイルに慣れてしまったので、不思議な感覚を味わいました。
  久しぶりのリアル開催ということで、浅草のがん哲カフェメンバーだけでなく、今回は「がん哲学外来」の提唱者で「一般社団法人がん哲学外来」名誉理事長を務める樋野興夫さんや関東地区でカフェを運営する方々も参加されました。薬剤師、看護師、作業療法士、ケアマネージャー、自営業などの職業につく参加者たちと、それぞれのカフェの現状、医療の現状、ACPなどを話題にして意見交換をしました。

 樋野先生が「がん哲学外来」をスタートしたのは2008年。ご自身のブログにもあるように、がん哲学外来は、草創記(ホップ)→発展期(ステップ)→飛躍期(ジャンプ)という道筋をへて今日に至っています。浅草のがん哲学カフェは2010年、主宰者の宮原富士子さんがスタート。その間、多くの方々ががん哲カフェを訪れ対話を重ねてきました。仲間たちの中には、がんとの壮絶な闘いの末、あの世に旅立った者も数人います。
  この日、「がん哲学外来」は、「がん患者が笑顔を取り戻し、がんを持ちながらもその人生を生ききることができる社会の達成を目的とする」という理念を、再確認しました。
  私自身は、「がん患者の家族」としてがん哲カフェを訪れ、いつしかカフェに居場所をみつけ、厳しい介護の時間を生きぬくことができました。介護後は、家族と死別しグリーフケアの最中にコロナ禍がやってきて、パンデミックに見舞われた世の中では思うように会いたい人たちとあえず不自由な生活を強いられました。死別の悲しさ、孤独、寂しさに加え得体のしれないウイルスとの戦いに不安を覚えましたが、そんな中でもがん哲カフェとオンラインを通して繋がりをもつことができ乗り切れたような気がしています。

 現在は「元がん患者の家族」となってしまいましたが、がんに罹患してもどんな苦しい状況になっても「生ききる」ことの潔さに触れたように思っています。
  今回のオリンピックでは、努力もむなしく戦いにやぶれた選手たちは「やりきりました、悔いはありません」と涙をこらえてインタビューに答えていました。メダルをとるだけが全てではありません。同じようにがんに罹患(がんに打ち勝つ/敗れる)することだけが人生の全てではありません。毎度のことながら、スポーツの感動にどっぷり浸ることができました。
 そんな中、カフェと同じ週の8月8日夜、宮崎県日向灘を震源地とする(南海トラフ大地震の想定発生域)地震がおこり、日本列島に緊張がはしりました。オリンピック観戦どころではなくなり、さらに次の日、今度は神奈川県西部で最大震度5弱を観測する地震がおこり、酷暑の中、冷や汗をかいた方は少なくないでしょう。
 この原稿をかいている(8/10)現在、2つの地震の関連性はないようですが、災害への備えが大事なのは言うまでもありません。

 先日、テレビをみていたら近年の異常気象ぶりに対し、ある専門家が「ニューフェイズにはいった」と指摘していました。前にしか進まない時の流れ同様、変わらないものは何ひとつないということですよね。
  もちろん、このままでいいわけがありません。夏が嫌いな私は、もし40度超の日々が続いたらとても現在の場所で生活できる自信がありませんし、ふさわしい別の場所も見当たりません。地球という大きな器に住まわせてもらっている私たちは、地球に寄り添い、地球環境に配慮した行動を積極的にするべきですよね。小さいことでもいいですからすぐに始めたいものです!

※一般社団法人がん哲学外来
https://gantetsugaku.org/

【2024/8/5 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)

 

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