勝海舟記念下町浅草がん哲学外来Café

コロナの時代を生き抜く      
~永遠に続くものはない、だからこそできること~

 九州・沖縄など一部の地方が例年より早く梅雨入りし、関東地方も梅雨入り間近?と報道されましたが、この原稿を書いている(5/25)時点、爽やかな晴天に恵まれ梅雨入りはまだのようです。
  2年目に突入した新型コロナ感染拡大に対する日本国内の動きは、5月17日(月)から65歳以上の方々の接種予約がはじまり、日本各地でワクチン協奏曲がかしましく鳴り響きました。自治体によって異なりますが、私の周囲は、いまだに予約がとれていない、とれたものの8月、自治体でとれないので国の方でとった、意外に1回の電話やインターネットでとれた、など様々です。この週は言うまでもなく連日、接種予約に関するニュース報道ばかりでスムーズな予約体制とはいいがたいために、不正な方法で該当しないのに接種をした方への不満が集中し、世の中全体がギスギスした雰囲気に包まれたようです。
 そして一週間後の5月24日(月)から一部の接種会場で接種が開始されています。予約がとれない人は、仕事どころではないはずですので、まずは接種できるという確約(安心)が欲しいものです。台東区で在宅診療薬剤師として活動している「がん哲学メディカルCafe」主宰者の宮原富士子さん(通称/みやちゃん)は、一人暮らしの高齢者を多くみていて、インターネットと無縁の方々ばかりなので、かなり前から彼等のフォロー(接種予約、接種後の対応など)にあたっています。

 2021年5月の「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来」の「がん哲学メディカルCafe」(以下、「がん哲カフェ」と表記)は、ワクチン協奏曲の最中の5月24日、オンライン開催されました。この日は講師にアンズスマイルの押尾亜哉さんをお呼びし、その活動を通じてがん哲カフェを考える機会を持ちました。
 アンズスマイルとは、流産・死産・乳児死等でせっかく宿った我が子を亡くされた方たちの心のより所として結成された自助グループで、主宰者の押尾さんは静岡で活動を展開されています。
 2度の流産と娘さんの死産経験をもつ押尾さん。愛する人の子どもを授かり、当然生まれてくると思ったのにかなわずはかなく逝ってしまった小さな生命。過去の悲しい出来事を通して、あたり前の日常がフツーにあると思うことのリスクを語り、だからこそ何でもない幸福な日々が現在あることへの感謝の気持ちを忘れない。その大切さを、体験を通して話されました。
 がん哲カフェでも、がんにまつわる人々が多く集い、それが故に死と無縁ではありません。がん闘病中は「がん」と闘い、愛する人をがんで失うと今度は「死別の喪失感」と闘うことになります。悲しみの核となるのは、愛した人の存在が死によって無になってしまうと(考える)いうことにあります。

 お腹の中で育ち母性がやどり、この世での対面を楽しみにしていたのに、流産や死産という悲劇に見舞われた場合、赤ちゃんは元々存在しなかった?と割り切れるものではありません。妊娠がわかった時から胎児とすごした時間は夢・まぼろしではなく、確かに存在した生命です……。
 アンズスマイルの活動の一つに、「天使届け」の発行があります。押尾さんの娘さんのように、この世に誕生したのに死産なので戸籍がない子どもたちの存在証明というべきものです。詳しくは当該団体のHPをご参照ください。  

★アンズスマイル https://ans-smile.jp

 がん医療の現場と患者さんの間にあるスキマをうめるべく「がん哲学外来」は誕生しました。妊婦の15%が流産しているという事実を思えば、アンズスマイルという会は生まれるべくしてできたものといえるでしょう。継続する団体が多くない中、この会は9年目に突入。思いを共有する方たちの居場所となっていることがわかります。
  コロナ禍では、これまであたり前にできていたことができなくなりました。持っているものをなくしたり、愛する人を突如出現したコロナ感染で亡くしたり、高齢者施設にはいっている親と面会できなくなったり、学校に通えなくなったり。コロナ切りにあい仕事も家もお金もなくした人がたくさんいらっしゃいます。
  今回のカフェでは、「現在、自分がもっているモノ」を再認識するために紙に書き出すというワークショップがありました。

 ……お気に入りパーツはないけれども五体満足な身体、大病はいまのところない健康な身体、あちこちメンテナンスが必要だけど気に入っている家、仕事上必要な道具(PCなど)すべて、グチや本音を聞いてくれる友人、がん哲カフェの仲間、認知症だけど元気溌剌とした親、亡くしてしまったけれど残してくれた最愛の人との思い出、挑戦する心、好奇心、嫌なことはイヤという勇気、イスラエル・パレスチナのようにコロナ禍なのに紛争することのない(おそらく)安全な国に住む国民であること、正しい医療を受ける権利、そして自分らしく生きる権利……。
 さほど意識したことはありませんでしたが、こんなにたくさんのものを持っているという事実を悟り嬉しくなりました。

 永遠なるものはありませんので悲しみをさけることは難しいと思いますが、だからこそ日々、感謝の気持ちをもって過ごしたいですよね。奇しくもこの日は押尾さんの娘さんの15回目の命日だったそうです。あの世で、自分を思いがんばってくれている母を誇らしく、そして見守ってくれていることでしょう。さぁ~、梅雨入り前の限りある晴天に感謝し掃除洗濯に精を出し、生きるためのコロナワクチン予約の競争に備えることにします!

 

【2021/5/28 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)

 

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