勝海舟記念下町浅草がん哲学外来Café

コロナの時代を生き抜く          
~死ぬことと生きることは、同じこと~

 4/20号「広報たいとう」(毎月5・20日発行)の一面は、
まん延防止等重点措置期間(5月11日(火)まで)」、 「65歳以上の方へ 4月23日(金)新型コロナウイルスワクチン接種券(クーポン券)を発送します」という見出し。
  昨日(4/19)の夜のニュースでは、感染勢いをとめられない大阪が「三度目の緊急事態宣言を出す?」といった報道がなされていましたが、不要不急の外出をさけ自宅周辺での生活をかたくなに守り、外食もほとんどしない生活をかれこれ1年以上送っている私は毎日がキンキュウジタイ。コロナ禍がはじまって以来、一度もいっていない試写室に久しぶりにいこうかと思っていましたが……。最近は映画の仕事をしていないにもかかわらず試写状を送ってくださる配給会社に悪いな~と思うものの、狭い試写室が満席になったらまさに密!諦めるしかありません。
  「まん防」っていつ出たの?「緊急事態宣言」は何度目?などわからなくなってきています。これはつまり、コロナ禍の生活に慣れてきたのだろうと思います。そして同じように慣れた方々がつい油断してしまい、変異株に感染し感染拡大となっているようです。

 2021年4月の「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来」の「がん哲学メディカルCafe」(以下、「がん哲カフェ」と表記)が4月19日、オンライン開催されました。この日のテーマは、「悲しみを力に変える ~大切な人に残す「人生会議」という贈りもの~」。講師は故・金子哲雄さん(流通ジャーナリスト)の奥様で終活ジャーナリスト(ライフ・ターミナル・ネットワーク代表)の金子稚子さん。「終活」という言葉の生みの親の故人の仕事を受け継ぎ、現在では医療、墓、供養、遺族ケア、ACPなどについて情報発信や提言を行っています。今回は最愛の人を失うという人生最大のストレスに直面した経験を通してACPの必要性についてお話いただきました。
  「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」=「人生会議」とは、自身がのぞむ医療・ケアをすべての人が自由に選択できるように支援するプロセスのことです。がん患者の家族を自宅にひきとって看取りたい(本人もそう希望していたのに)と考えていたのに、医療側の承認がえられず病院で亡くなった……。本人は抗がん剤治療をかたくなに拒否していたのに医療側や家族の意見を尊重し副作用に苦しんだ……。いろいろなケースがありますが、自身が入りたい学校や会社を自由に選ぶように人生最後の医療・ケアも患者側の意思が尊重されるべきだと思います。

 金子さんの大事な人(亡くなったご主人)は、どのように生き抜いたのでしょうか?
  死を告知されると「いきかた」(生き方/逝き方)を決め、闘病期間中も必要な人以外に病気のことを隠し仕事を続け、家族が疲弊しないように自身の葬儀や死後のことなどをすべてプロデュースし、41年の人生に幕を閉じました。それを周囲の人に共有し理解してもらおうと努力し続けられた、まさに、終活やACPを実践した見事な生き様です!
  病気がわかった時点でいつ死んでもおかしくない状態、つまり死が近くにいた状態だっただけに、ご本人も奥様である金子さんもしんどいことが多々あったことでしょう。それだけに、自身ののぞむ生き方(逝き方)を実践するには、関係者が理解かつ話しあい“続ける”(終わりはなし)ことが必要です。まずは、大切なことを伝えられる(受け止められる)人間関係を構築することがなにより求められます。

 ご主人が亡くなられて8年半……。大事な人をなくした方々が直面する身体の不調や複雑な感情の嵐を制御することが大変だったことは想像に難くありません。それでも「人生会議」というギフトのおかげで死後に必要となる煩雑な対応を回避でき、時間の経過とともに死別の悲しみを力に変えて、現在は立派に故人の仕事を継承(いや、それ以上かもしれません)されるに至ったのではないでしょうか。
  人生会議の成功事例を成し遂げた金子夫妻。もう少し人生の最終段階を生きる上で大切にしたいことを教えていただくと、

○「自分チーム」を作る、
○本心を話せる(伝えられる)人を見つける、
○大切なのは「その人らしさ」、

ということでした。

パートナーも子どももなく将来が不安というおひとり様が多いようですが、誰でもおひとり様になる可能性が高く、同居していても「同居孤独死」が増えている事実からして、チームメンバーは家族に限定する必要はありません。なんでも話せる相談相手や地域の友達は心強い存在なのかもしれません。パワー溢れるみやちゃんは、多分生涯現役と思いますが、引退したら親しい地域の仲間達とシェアハウスで暮らし、ワンコインサービスで必要な人たちに手をさしのべる活動をしたいそうです。仲間は医療・介護の現場の人たちばかりなので心強そうですよね!
 但し、家族以外で信頼できる仲間たちとチームを結成した場合、自分に何かあった時のために、その存在を、遺言書の存在を知らせるのと同じように家族に知らせておくことが大事です。 「死」という言葉が多く登場した本コラム。生きている人には必ず平等に最期の時(死)がやってきます。つまり、死は生の延長上にあり、死ぬことと生きることは同じなのです。
 私が見る限り、終活(自分史作り、エンディングノート作成、遺言状作成、デジタル終活、写真整理など)はわりと普及しているようですが、ACP(人生会議)はそうでもないようで、その言葉さえ聞いたことがないという医療人もいるようです。自分らしい最期、考えてみませんか!?

 

【2021/4/19 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)

 

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