勝海舟記念下町浅草がん哲学外来Café

時間にまつわるお話

 連日の厳しい暑さで、これまで熱中症を経験したことのない人が、手足のしびれや胸がしめつけられるような感覚を覚えヒヤリとしたといった声を方々で聞きます。毎年のことですが酷暑は当分続くそうですので、対策をしっかりしてお過ごしください。
  8月の「勝海舟記念 下町(浅草)がん哲学外来」の「オンライン がん哲学メディカルCafe」(以下、「がん哲カフェ」と表記)は、8月7日夜に開催されました。
  今月のがん哲カフェは、「大阪がん哲学外来 メディカルカフェあずまや」主宰者で浅草のがん哲カフェの常連でもある東英子医師が、「対話とは 傾聴と間」をテーマに話されました。「傾聴」については過去のカフェでもお話しいただきましたが、今回のカフェでは、さらに掘り下げて「間(ま)」について考える時間をもちました。

 少し前にハマっていたテレビドラマの公式サイトを見ていたら、主演の男女2人の俳優インタビュー記事のうち男性俳優の記事に目がとまりました。そこには、相手役の女性俳優のことを「〇〇さんは間(ま)の取り方がすごくうまくて、とても参考になります……云々」とありました。
 私はこの女性俳優のことをてっきり演技がうまくない役者とばかり思っていたもので、正直~そうなんだ~!?と驚いた次第。俳優ではない私には、芝居をしている人たちがステキかどうか好感がもてるかどうかぐらいの評価はできますが、役者としての力量を判断することはできません。確かにセリフを出すタイミングは、通常の会話と同じでとても大事、と当たり前のことを改めて納得しました。

 「間(ま)」とは、言うまでもなく話す時に言葉を言わないでおく時間のことです。 親しい友人と食事をしていた時の話。彼女には2人の成人した姪がいるそうですが、一人は明朗活発で会う時は自然なおしゃべりができ楽しいそうですが、もう一人はパッとした華のある外見とは違いコミュニケーション能力が低いらしく、「間が持たないのよね~。どうやって時間を過ごそうか会うと苦痛なのよ~」と愚痴っていました。人と接することが苦手なのかと思うとそうでもなく、同様の会食の場には進んで参加しているというから不思議です。会話の引き出しが多い友人が困るほどですから、かなり寡黙な女性なのかもしれませんね(勿論、寡黙さを否定するつもりはありません)。
 その一方で、私たちの生活の場では一人で間断なくしゃべり続け、しかも自分のことばかり話題にして(多くの場合)その場にいる方々を疲れさせるタイプの人はいるものです。間の取り方って難しいですよね!

 この日、全国からオンラインで繋がったメンバーは私以外はみな医療従事者でした。彼らは常日頃、医療の現場で患者さんを相手にし、長くはとれない時間内で話に耳を傾けうまく意思を伝えられない方が望むことを引き出していくために、傾聴のスキルを活用しています。
 医療と患者さんの隙間をうめるがん哲カフェの現場にも、日常の中にがんが入り込んできた方々が様々な不安や悩みを抱えてやってこられます。全国津々浦々に存在するがん哲学外来に関わっている方々、これから自身でがん哲カフェを立ち上げようとされる方々は、傾聴スキルを習得し、がん哲カフェにおける間(ま)の取り方についてじっくり考える必要があるのは言うまでもありません。

 本日(8/10)は全国的にお盆休みにはいったため、東京は人出が少なくなっています。今年のお盆休みは台風の影響をうける形となりました。ここのところ、異常気象のせいで急なにわか雨や雷雨、所により雹がふったり竜巻がおきたりと、自然に振り回されてばかりで一日の終わりは疲労困憊状態です。ぐったりして充実しているとはとても言い難い夏の日々を過ごしていますが、一日があっという間に過ぎていくというのが実感としてあります。
 目を閉じて1分間無心になる時間はシチュエーションによって異なります。大事な人を亡くして「もう〇年」と思うこともあれば、「まだ〇年」と感じたりもするから時間とは不思議でなりません。

 現在公開で大ヒットしている映画「東京リベンジャーズ」やテレビドラマ「最高の教師」(毎週土曜日夜10時放送)は共にタイムリープするお話です……。現実の時間から瞬時に過去や未来に移動するなんてあり得ないというのが凡人の私の感想ですが、あり得たらどんなにすばらしいだろうという思いも少しあります。
 ・・・あの日に戻って、大事な人の身体に巣くったがん細胞を、名医にきれいに切除してもらっていたら・・・闘病中にもどって、もっとしっかり栄養のあるものを食べさせていたら・・・なんて考える(た)方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、こういう思いは必ず時間が解決してくれることでしょう。「時間(とき)ぐすり」の効能ですよね!
 人生は一回きり、つまり過去も現在も未来も一度きりということです。だからこそ一期一会の精神で時間とつきあい、今日という日をしっかり生きて、出会った人と真摯に向き合っていきたいものです。

※参考:一般社団法人がん哲学外来 http://gantetsugaku.org/learning/

 

【2023/8/7 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)

 

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