勝海舟記念下町浅草がん哲学外来Café

医師の言葉はどう響くものなのか!?

 新年初めての「下町(浅草)がん哲学外来」の「がん哲学カフェ」(以下、「がん哲カフェ」と表記)は、1月20日に開催されました。……それなのにこの原稿を書いているのは2週間近く経過した2月6日。開催当日は、いつものように浅草は賑やかでしたが、現在は外国人(特に中国人)の姿があまり見られなくなり、不安に怯える住民が多いのか浅草寺や隅田川界隈に賑わいはありません。そうです、中国湖北省武漢市に端を発する新型コロナウイルがとどまることなく、世界各国で感染の広がりをみせていて、依然としてトップニュース扱いを保っているからです。

 日本国内でも感染者数は増えつつありますが、本日(2/6)のニュースで知るかぎり、重症化している人はあまりなく死亡者もありません。発信源の中国は、国内で相当数の感染者をだしており、受け入れ医療施設の数が不足し、悲しい事に死亡者が増えているのは事実です。一日もはやい収束を望むばかりです。

 話を「がん哲カフェ」に戻します。この日は、ご家族をがんで亡くされたばかりだという初めての参加者があったことから、彼女のお話を中心に進めることとなりました。

 闘病期間中、病気をみてもらい自身の人生(もしくは、運命)を医師に託す患者にとって、医師は神様的存在です。病気を治してもらうために、医師の指示に従い、信頼し、託す。セカンドオピニオンやサードオピニオンが当然のようになっている現在とはいえ、大方の人は、病院を受診すると、その病院によって主治医が決められます。よほどのコネクションや自身の見識がなければ、「自分の病気を治してくれるのは○○先生だけ!」とはなりません。また、望む医師にたどり着いて手術を施してくれたとしても、その医師が多忙の場合、執刀医にはなっても主治医にはならないものです。

 つまり、多くの方々にとって医師は「与えられた人」であり、将来のパートナーを選ぶようにはいかず、くじ引きといっても過言ではありません。

 この日、「がん哲学カフェ」でメンバーの一人が、「医師はしゃべることが仕事」と発言し少し驚きました。なぜなら、私はここまでの人生で、自身や家族のためにたくさんの医師のお世話になってきましたが、話し上手だと感じた医師はたったの一人だけだからです。さらに、友人知人から、医師の言動や行動に傷ついた、治療法をめぐって医師との間に解釈の違いがあった、医師と相性が悪いようで不安、などと愚痴をこぼす例を多く聞いています。だから、ほどほどに問題がなければ、「グッドドクター」と思うようにしている方が多いのではないでしょうか。

 私の場合、年齢を重ねるたびに医療ドラマに関心をもつように(以前は刑事もの!)なりました。シリーズ化された人気医療ドラマ「ドクター X」をみてからです。この女医こと大門未知子は、ズケズケものを言う言葉を選ばない医師といえますが、嘘がなくストレートな物言いが私は好感がもてます。出来ないのに出来るように婉曲的な言い回しをしたり、責任逃れのためかハッキリ言わなかったりする医師より、わかりやすいし信頼できるからです。「私、失敗しないので!」なんて言われたら、それこそ百人力、生きる希望に満ち溢れてしまいます。

 この日の「がん哲学カフェ」のテーマは、「医師の言葉は患者にどのように響くか?」で、医師は何故、冷たいともいえる物言いをするのか、医師の立場になって考えてみることにしました。メンバーの意見は次の通りでした。

 

○医師が忙しいため患者とのコミュニケーションがしっかりとれてないのではないか。また、患者目線になれない医師が多いのは確かなので、患者側も意識を変えていかないと「医療維新」にはならないと思います。(がん闘病中、自営業)

○なまじ知識があるために医師に意見したくなり、それ以来、医師との関係がぎくしゃくしたことがあります。(薬剤師)

○がん闘病中だった家族をなくしたばかりの私を思いやってか、善意の言葉をくださる方がいるが、重く感じることがある。相手の気持ちをくみとることの難しさは、どんな職業についているかは問題ではないように思います。家族の闘病中、当事者の家族は「与えられた医師」の意見をそのまま信じ少しも疑わなかったが、医師のいうことが間違っていないかどうか、と後で考えるようになった。自分で判断できるようにならないとダメなのかと思いました。(元がん患者の家族)

○がん患者だったことがあるが、医師との関係はわりとうまくいっていたと思う。信頼関係を築くには、まず、相手を信じることが大事なので、いろいろ考えるよりは信じようと決めました。(自営業)

 

 今週、私は4本の医療ドラマをテレビでみました。中でも毎週木曜日夜10時放送の「アライブ がん専門医のカルテ」は、医療事故で最愛の夫をなくした腫瘍内科医とミスをした消化器外科の女医の話を中心に進んでいきます。がん治療の化学療法に携わる女医は、とてもまじめで仕事熱心であるだけでなく、「病気ではなく、患者をみる」ことを心がける、お節介ともいえるグッドドクターです。患者に対してもとても穏やかに接し、丁寧な言葉を発しています。天才外科医の大門先生とは対照的に、言葉を慎重に選んでいるといえます……。

 いいことばかりをやんわりと言うドクターが良いとは思いませんが、生命をあずける医師の言葉は、ずばり患者のモチベーションに左右することは間違いありません。

 日本は深刻な医師不足だということは、きちんと時事問題を把握している人なら知っています。だから、患者として医師に接する際、いろいろ聞きたいことがあっても不安なことがあっても医師に負担をかけないように気をつかってしまうもので、よほどのことがない限りは、「医師が気に入らないから変えてくれ」などと病院にクレームをつけたりはしないものではないでしょうか。そこには、国民が医療の選択に長けていないという現実があるのは確かです。それは医師に関してだけでなく、介護サービスを受ける時、手続きをした際、介護サービスの要となるケアマネージャーが決まり、自然に「与えられた人」となる事例と同じです。「医療維新」への道のりは長そうですよね……。

【2020/1/20 がん哲カフェ】(文・桑島まさき/監修・宮原富士子)

 

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